コラム:貼付剤技術とは

貼付剤の分類

貼付剤は外用固形製剤の一つに分類されており、テープ剤とパップ剤の二つがあります。

テープ剤
ほとんど水を含まない基剤を用いる貼付剤。
パップ剤
水を含む基剤を用いる貼付剤。

また、構造に着目すると次のような分類も可能です。

マトリックス型
支持体に薬物と粘着剤や添加剤を均一に混合した膏体層を塗り付け、その上に膏体層を保護するライナー層を設けるという、比較的シンプルな構造の貼付剤です。薬剤層と粘着剤層が分かれたものも存在します。
リザーバー型
薬物貯蔵層と粘着剤層の間に放出制御層を挟む構造を持つ貼付剤です。制御層により、安定して薬物を放出します。
〈引用・参考〉『transdermal patches : history, development and pharmacology』

図の通り、マトリックス型の製剤はシンプルな構造であるため、製造が比較的容易であること、製剤の厚さが抑えられることなどのメリットがあります。現在開発されている貼付剤の多くはマトリックス型を採用しています。

作用範囲による以下のような分類も可能です。

局所作用型
患部に貼付して炎症や痛みを抑える消炎鎮痛剤などがこれに当たります。貼り付けた箇所に限定して薬効を発揮します。
全身作用型
薬物が皮膚を介して血中に放出され血液循環により全身に作用する貼付剤です。

経皮吸収のメカニズム

薬物の経皮吸収経路

薬物の経皮吸収経路を右図に示します。汗腺や毛穴のような比較的大きな孔だけでなく、角質細胞内部や角層細胞間脂質を通過すると考えられています。

こうした経路を通過するために、貼付剤化可能な薬物には次のような条件が挙げられます。

分子量
バリア機能を有する角層を突破することのできる薬物は、その分子量に制限があります。現在貼付剤化に成功している薬物の多くは分子量500以下です。
適度な脂溶性
細胞壁は脂分を主成分としているため、適度な脂溶性を持つ物質は細胞に吸収されやすいことがわかっています。貼付剤化実績のある薬物の油水分配係数に着目すると、およそlogP=1~4.5の間にあるとされます。
融点
皮膚に吸収される際、薬物は分子として吸収されます。融点の低い物質は分子の動きが活発なため、体内への吸収性が高まります。

貼付剤化の注意点

貼付剤は粘着剤層を直接肌に貼り付けて有効成分を吸収させるため、人体に対する安全性が大変重要になります。

皮膚刺激

シートの肌への追従性が悪かったり、残留溶剤があったりすると、皮膚のただれやかゆみといった症状を引き起こすことがあります。また薬物そのものが肌への刺激性を有している場合もあるため注意が必要です。

貼りやすさと剥がしやすさ

貼付剤は貼ったまま日常生活を送ります。ちょっとした運動では剥がれず、かつ剥がしたいときには痛みを伴わずに剥がすことができることが大切です。また粘着力が強すぎると、剥離時に角質層まで剥がしてしまう恐れがあります。

貼付剤の現状

下表は現在貼付剤化されている全身作用型の貼付剤(抜粋)です。

(〇:発売、×:未発売)

疾患 一般名 日本 欧米 製品の形状 分子量 融点 ℃
気管支喘息 ツロブテロール × マトリックス型 227.7 90~93
虚血性心疾患 ニトログリセリン リザーバー型
マトリックス型
227.1 13.5
硝酸イソソルビド × マトリックス型 236.1 70
高血圧 クロニジン × リザーバー型 230.1 130
ビソプロロール × マトリックス型 325.4 29
過活動膀胱 オキシブチニン塩酸塩 マトリックス型 393.9 129~130
アルツハイマー病 リバスチグミン マトリックス型 250.3 -
パーキンソン病 ロチゴチン マトリックス型 315.5 94~100
注意欠陥・多動性障害 メチルフェニデート × マトリックス型 269.8 204
統合失調症 ブロナンセリン × マトリックス型 367.5 123~126
うつ セレギリン × マトリックス型 223.7 140~144
閉経後骨粗鬆症 エストラジオール リザーバー型 272.4 173~179
吐き気 スコポラミン × リザーバー型 303.4 59
アレルギー性鼻炎 エメダスチンフマル酸塩 × リザーバー型 534.6 149~152
鎮痛 フェンタニル リザーバー型
マトリックス型
336.5 83~84
鎮痛
禁煙
ブプレノルフィン マトリックス型 348.9 291
ニコチン リザーバー型 162.2 90

貼付剤の種類は、他の剤形に比べると少ないですが、様々な領域で製剤化が進んでいます。その服薬の簡便さや管理のしやすさは患者様にとっても大きなメリットとなるため、今後一層の開発が期待されます。

参考文献

『経皮吸収製剤開発における基礎と実務への応用』監修:城西大学 杉林堅次

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トーヨーケム株式会社
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